今回は書籍『ななみの海/朝比奈あすか』(双葉社)の使用フォントを解説。ブックデザインを手がけた草苅睦子[アルビレオ]さんに取材しました。
*本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、プロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
海の波をイメージした文字で十代の心許なさや揺らぎを爽やかに表現
児童養護施設で暮らす高校生のななみが、受験勉強やアルバイト、部活、学校や施設での人間関係などを通して成長していく姿を描いた青春小説『ななみの海/朝比奈あすか』。施設という環境にいるからこそ直面する葛藤を掘り下げながらも、十代の普遍的な悩みや日常が生き生きと丁寧に書き込まれており、世代を問わず共感できる内容になっています。
表紙カバーでは、その十代の心許なさや揺らぎ、主人公の少女の成長や青春が、眩しいほどの輝きを感じさせるイラストや、海の波をイメージしたタイトルロゴなどで印象的に表現されています。デザインを担当した草苅さんによると「表紙カバーでは、作品の爽やかな世界観を大切に表現するよう心がけました。当初は主人公と同世代の読者を念頭にもう少しポップなタイトルロゴを考えていたのですが、大人も共感できる普遍性のある成長物語なので、より幅広い世代の読者が手に取りやすいようなデザインにしました」とのことです。
Font.01「オリジナル(陸隷)」
海の波をイメージした文字で優しく爽やかな印象に
メインタイトルの文字は、伝統的でありながらモダンな表情も併せ持つ隷書体「陸隷」(モリサワ)をベースに作り起こされたオリジナルのもの。海の波のイメージに合わせて平体をかけたり、ハライの形状を変えたりしながら制作されました。
草苅さんによれば「穏やかで優しく包み込んでくれるような、それでいて凛とした力強さもある海の波をイメージしています。元の書体からは大きく形を変えていますが、波のイメージを表現しつつも、隷書体が持つ端正な雰囲気は壊さないよう心がけました」とのこと。
Font.02「筑紫アンティークL明朝」
作品の優しい雰囲気に合わせて風情豊かな明朝体に
著者名部分の文字は、金属活字を思わせる古典的で風情豊かな「筑紫アンティークL明朝」(フォントワークス)に。草苅さんによれば「作品のイメージに合わせて優しく爽やかな感じにしたかったので、ゴシック体ではなく明朝系の書体を検討しました。ただ、オーソドックスな明朝体だと隷書体をベースにしたタイトルロゴとバッティングしてしまいそうだったので、フトコロが狭く伸びやかな書体を選んで差別化しています」とのこと。
Font.03「HanziPen TC」
手書き風の文字で若々しく可愛らしく
著者名の欧文部分の文字は、ペンで書いたような手書き風書体「HanziPen TC」(ダイナコムウェア)に。中国語の繁体字用書体の従属欧文だが、作品の若々しい雰囲気にピッタリだったため選択されました。
草苅さんによれば「十代の少女の成長を描いた作品なので、どこかに可愛らしい要素を加えてアクセントをつけたいと考えて、いろいろ書体を試してみたのですが、いちばんしっくりきたのがこの書体でした。著者名の和文書体とのバランスにも配慮しつつ、主人公のななみちゃんが書いたようなイメージで選びました」とのことです。
制作者プロフィール
- 株式会社アルビレオ
- デザイン事務所
- 西村真紀子・草苅睦子によって2008年8月設立。文芸書、児童書、翻訳書、実用書などジャンルを問わず内容に応じたデザインを心がけている。http://www.albireo.co.jp
2022.04.15 Fri2022.04.19 Tue