佐藤詩織さんと“クリエイティブな人・コト・モノ”に出会う連載
デザインスタジオが手がける活版印刷所「PRINT + PLANT」へ。リソグラフ印刷の体験も!(後編)
欅坂46の元メンバーであり、武蔵野美術大学を卒業された佐藤詩織さんが“クリエイティブな人・コト・モノ”に出会う人気の連載企画。第4回目となる今回は、東京・都立大学に位置するカフェショップ「PRINT + PLANT」へ。こちらは、デザインスタジオが運営し、活版印刷と植物をコンセプトにしたカフェショップ。坂の途中にあるこじんまりとしたお店に足を踏み入れると、ヴィンテージで味わい深い印刷機や植物の標本、バリエーション豊かな印刷見本などが目に飛び込み、思わず心が躍ります。後編では、佐藤さんが実際にリソグラフを体験した様子をお届け。
佐藤さんがリソグラフに挑戦。ICHOに願いを込めて!?
PRINT + PLANTのオーナーであり、デザイナーの猪飼俊介さんと、スタッフの内間あやめさんにご指導いただきながら、版ズレやかすれなどレトロな風合いが人気のリソグラフにも初挑戦しました。体験前には「不安半分、楽しみ半分」と自信なさげに話す佐藤さんでしたが、挑戦の結果やいかに?
猪飼 では、リソグラフを始めましょうか。まず、版をつくるための原稿を制作していただきます。
佐藤 はい。原稿を制作するにあたって、気をつけることはありますか?
猪飼 今日は、版ごとにインキの色を選んで多色刷りを楽しんでいただこうと思っているのですが、色同士は透過して重なって混色します。つまり、黄色の版と青い版が重なると緑になるということです。ただ、原稿は白黒で描いていただくので、頭の中で色の重なりのイメージを持っていただくことがポイントですね。ここからはスタッフの内間さんがお手伝いします。
内間 では、制作したい原稿に対して、色数分の版を作成していただきます。当店オリジナルのテンプレートを切り貼りしたり、ペンやマスキングテープなどを使って原稿を作ってみましょう。
佐藤 テンプレートはいろいろな形や模様があって、楽しくて迷ってしまいます。あ、この人型のシルエットおもしろい。そうだ、これを使って“胃腸の魔神”を作ることにします! 私は胃腸があまり強くないので、調子を整えてくれるように想いを込めて作ってみたいなぁと、今思いつきました。
内間 ふふ、素敵な発想ですね。トレス台を使うと版の重なりがシミュレーションできますからぜひ活用してください。それぞれの版に何色を使用するかについては、混色見本が参考になると思います。
佐藤 たくさん色がありますから、色の重なりを想像するのは難しいですね。混乱してしまいます……。
内間 慣れている人にとっても、多色の混色を考えることはとても難易度の高い作業です。まずは2色だけ印刷して、それを見てから3色目以降を考えてみましょうか。あ、そうこうしているうちに原稿ができあがりましたね。
佐藤 ふぅ、思わず熱中していました! 原稿は、テンプレートや鉛筆などを使って「ICHO」と書いた版、魔神のイラストの版、円の図形の版の3版を作りました。
内間 いろんな素材を使ってくださって、楽しい雰囲気が伝わってきます。それにマーカーの太い線や鉛筆の細い線、テンプレートのグラデーションなど、表情がそれぞれ異なっていて、仕上がりがとても楽しみです。
リソグラフの魅力はインキの発色と混色。透け感も美しい
内間 では、印刷に移りましょう。先ほど描いていただいた原稿をスキャンして、機械の中で製版を行います。一度に2色まで刷ることができますが、1、2版目の色は決まりましたか?
佐藤 とても悩ましいのですが、1版目の文字は蛍光ピンク、2版目のシルエットは蛍光黄色にしたいと思います。
内間 わかりました。では、該当のインキが入ったドラムを機械にセットしてみましょう。今日は白い紙と黒い紙を用意したので、紙の色による発色の違いも楽しんでいただけると思います。1、2版目を印刷してみましたが、いかがですか?
佐藤 わぁ、発色がとてもきれい! それにグラデーションの濃淡がしっかりと出ているし、鉛筆で書いた細い線や手書きの“もしゃもしゃ感”も表現できていて、すごく面白いです。
内間 スキャン濃度を変えることで版の穴の大きさが変更できるので、グラデーションや細い線もきちんと表現できるんです。次に3版目を印刷しますが、1、2版目をご覧になって、色のアイディアは浮かびましたか……?
佐藤 そうですね……。緑はどうでしょうか。
内間 いいですね。ではドラムを緑に変えて……。製版時に設定できる網点(ドット表現のこと)の大きさを変更してみても面白いと思いますので、やってみますね。どうでしょう。
佐藤 黄色のボディに丸い緑が、まるでアボカドの魔神みたい(笑)。頭の中の想像とは違ったけれど、なんだかかわいいです。編点を変更したことで、ピンクのグラデーションの表現とは違う表情が加わって面白いですね。
内間 網点だけでなく、使用する紙の種類や色変更したりと、リソグラフでできる表現の可能性は無限大です。トンボに沿って紙を裁断したら完成ですよ。素敵なものができましたね。
佐藤 ありがとうございます。実物を見るまでは混色のイメージが難しくて心配していましたが、試行錯誤する過程も含めてとっても面白く取り組めました。それに、色の透け感がとってもきれいなことにすごく驚いています。
猪飼 色の重なりは頭を悩ませる部分でもあり、リソグラフの大きな魅力なんです。今日体験していただいてイメージが掴めたと思いますので、ぜひ今度は作品作りにも挑戦してみてくださいね。
PRINT + PLANT / SHOP DATA
植物に囲まれた空間で、活版印刷やリソグラフなどの「アナログ印刷」の相談や発注が可能なカフェショップ。独自に開発した「特殊印刷」では、刷るたびに色が変化する「ランダム印刷」や、一枚の原稿におけるインキの厚みを変化させて色の濃淡を表現する「ゴースト印刷」なども人気。定期的に開催しているワークショップでは、子連れや学生、印刷好き、プロまで、幅広い層から高い注目を集めている。
店内には、活版印刷の魅力を手軽に味わえるカード自販機のほか、植物をガラスの板で閉じ込めた「植物標本」、作品としてそのまま飾れる印刷見本なども販売。カフェのみの利用も可能で、「印刷所に行く感覚ではなく、気軽に行ける場所だと思ってもらえたら嬉しい」と猪飼さん。
DATA
店舗名 | PRINT + PLANT(プリント プラント) |
住所 | 東京都目黒区柿の木坂1-32-17 |
営業時間 | 11:00〜19:00 |
定休日 | なし(祝日の営業は事前にSNSなどでご確認ください) |
アクセス | 東横線都立大学駅より徒歩5分 |
問い合わせ | 070-2675-5090 |
公式サイト | https://print-plant.com/ |
PRINT + PLANT/Instagram(店舗情報) | https://www.instagram.com/printplant_official/ |
ALBATRO DESIGN/Instagram(作例情報) | https://www.instagram.com/albatrodesign/ |
プロフィール
- 猪飼俊介
- ALBATRO DESIGN、PRINT + PLANT代表
- 1982年、東京生まれ。2008年にロンドン芸術大学を卒業し、09年 Kaikai Kiki デザイナー、ADを経てデザイン会社 ALBATRO DESIGNを設立。15年には、グッドデザイン賞 メコンデザインセレクションを受賞。16年 東京藝術大学 デザイン科 非常勤講師に就任。
2023.07.28 Fri