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デザインの現場から届ける実践的な手法と思考プロセス

2026.07.28 Tue

インタラクションデザインの再定義 〜ユーザーの目的とビジネスゴールを調和させる「対話」の技術〜

Text by 玉川 百代

いまこの記事を読んでいるあなたが、Webサイトやアプリケーションのデジタルデザインに携わる仕事をしている場合、自身の職業を何と表していますか。UIデザイナー? それともUXデザイナー? これらの呼称にあなたはしっくりきていますか?

しっくりこないあなたは、恐らくUIデザイナー/UXデザイナーでは表現しきれないデザインに挑んでいるのでしょう。「UI」という表層的なデザインだけでなく、そこからさらに一歩踏み込んだ、システムに触れるユーザーの体験をデザインをしている自信はある。しかしそれを「UX」というあまりにも対象が広すぎる言葉で名乗るのはピンとこない。一体自分は何をデザインしているのだろうか。

もしかするとあなたは、インタラクションデザイナーなのかもしれません。インタラクションデザイナーとは何か。何をする人なのか。そしてインタラクションデザイナーとして、デザインスキルを磨くには何をすればいいか。本記事ではそれを明らかにしていきます。

インタラクションデザインの真意

「インタラクションデザイン」という言葉を聞いて、どのようなデザインが思い浮かびますか? 多くの人は「ボタンを押したときの小さな動きや音」「画面が遷移するときのアニメーション」といった、画面に触れる、操作をするといったインタフェースの反応をイメージするのではないでしょうか。実際のところ「インタラクションデザイン」で検索すると、上記の内容を指し示すようなAIサマリーが表示されます。

しかし、インタラクションデザインの本来の意味は少し異なります。世界的に著名なインタラクションデザイナー、ダン・サッファーが著した「インタラクションデザインの教科書(Dan Saffer著・吉岡いずみ訳・ソシオメディア株式会社監訳(2008)」には、次のように記されています。

「インタラクションデザインは、製品やサービスを介して人がインタラクション(対話)することを手助けするための技術である」。本来、インタラクションとは「対話」を意味する英語です。「ボタンが動く」「アニメーションが気持ちいい」というのは、あくまでインタラクションデザインの一部です。「ユーザーの目的」そして「(あなたから見た)クライアントの目的」が、インターフェースを介して対話するさまを設計する。これがインタラクションデザインです。

実際のところ、生成AIの普及が著しく、デザイナーが自ら手を動かして、ゼロからデザインを作ることは徐々に少なくなる未来が見えてきています。そんな中、ユーザーとクライアントの目的を突き詰めて考えて、デザインに落とし込むには、ユーザーのリアルな意見を反映させる必要があります。つまり、インタラクションデザインは、デザイナーが今後も向き合い、取り組むべきデザインの領域なのです。

ユーザーとクライアントの目的調和

それでは、インタラクションデザインを実践するには、具体的に何をすべきでしょうか?

 インタラクションデザインとは「ユーザーの目的」と「クライアントの目的」が対話するさまを設計することです。つまり、ユーザーとクライアント、両方の目的をしっかりと理解し、両者の目的を達成することが、インタラクションデザインの実践といえます。

ユーザーの目的を理解し、ユーザーに寄り添ったデザインを作るのは、本記事を読んでいるデザイナーなら恐らく得意分野でしょう。既に知られている手法も多く、ペルソナ作成やカスタマージャーニーマップの活用などはその代表例です。こうした手法を用いて、ユーザー体験と満足度を高めるためのデザインを作る。それこそがやりがいを感じる領域だという人も多いかも知れません。

一方で「クライアントの目的」はどうでしょうか?

クライアントの目的は、突き詰めると、そのサービスを通じてビジネス上の利益を得ることです。利益が得られなければ、サービスを継続させられません。しばしば、クライアントの目的ばかりが強くなり、ユーザーを騙したり、冷静な判断を奪ってコンバージョンさせたりする手法(例:残り時間を不必要にカウントダウンする、勝手にオプションにチェックを入れるなど)が、デザインの問題として取り上げられることがあります。

クライアントの目的が優先された結果、ユーザーに不満がたまり、最終的にユーザーがサービスを離れてしまっては本末転倒です。デザインで課題を解決したいと志す、誠実なデザイナーであるほど、最も回避したい状況といえるでしょう。

クライアントの信頼を獲得する

それでは、どうすればこの問題が解決するでしょうか。ユーザーに寄り添い、いかにユーザーにとって不利益なのかをまとめ、クライアントを説得すれば良いでしょうか。その説得内容が論理的で、かつクライアントにとっても利益になる内容であれば、受け入れられることでしょう。しかし、この手法を取るには、先に前提となる条件を達成しておかなければなりません。それは、デザイナーがクライアントの信頼を「その時点で既に」獲得していることです。

つまり、インタラクションデザインの実践には、クライアントの信頼を獲得することが必要不可欠です。そしてこの信頼の獲得は、案件を通じて長期的に構築されるものではなく、案件のごく初期段階において、達成されていなければなりません。 

初期段階に獲得した信頼は、クライアントに「このデザイナーなら任せられる」という安心感につながります。この安心感は、ときにクライアントの意見に反するがユーザーの目的に寄り添うには必要なデザインを説明するときに真価を発揮します。クライアントは「このデザイナーは単に反対しているのではなく、利益の最大化を考えた上で話している」と理解し「こちら側の情報を渡して、解決策を考えてもらおう」という建設的な議論の場が生まれます。

「インタラクションデザインの教科書」でも、デザイン実践の章で一番最初に登場するのは「クライアントにインタビューを実施し、ビジネスのゴールを理解する」ことです。

インタラクションデザインの実践は、ユーザーとクライアントの対話の設計ですが、その土台には、共に案件を進めるクライアントとデザイナーの対話が重要なのです。

案件の初期に信頼を勝ち取る「4つの当たり前」

最後に、案件の初期段階においてクライアントの信頼を獲得するために、具体的に何をすればいいのか紹介します。「当たり前のこと」と思われるかもしれませんが、この当たり前に見えることを、すべて実践できるデザイナーは多くありません。

1:レスポンスをとにかく早く
クライアントのメールやチャット、電話には、気付いた瞬間にまずは反応をします。すぐに返答できない内容の場合は、確認して返答する旨をまずは伝えます。「取り急ぎお返事を差し上げます」という返事が積み上がるほど、その内容そのものの返事が少し遅くなったとしても「ちゃんと確認してくれているだろう」という信頼を獲得できます。

2:期限を宣言する
上記のような状況で、急ぎの内容でない場合は「今日中にお返事します」「明日の午後にお返事します」と期限を宣言し、守ります。遅れそうな場合は、遅れそうと分かった段階ですぐに連絡し、次の期限を宣言します。クライアントに「いつ返事がくるのだろう」と思わせることは、クライアントの頭の片隅に、消化されないタスクを残し続けることになります。自分で期限を宣言することは、少しストレスがかかりますが、初期段階で実践し守り、信頼を獲得すると、後になって深刻な期限の調整が必要になったときに、受け入れてもらいやすくなります。

3:全体像を最初に見せる
案件が始まったときに、全体のスケジュールを提示します。そしてクライアントと話すたびに、そのスケジュールの今どの段階にいるかを報告します。クライアントにも上司がいて、案件の進捗を報告しています。そのために必要な情報を提示しつつ、スケジュール進行を把握していることを伝えることもまた、信頼感につながります。

4:対話を恐れない
コミュニケーション手段が数多く存在する現代において、文章でのやり取りが増えた中でも「実際に会話をする」という対話手法は、何よりも相手に安心感を与えます。電話は強力なツールです。「電話は相手の時間を強制的に奪う」という言説もありますが、チャットの文章を作成する時間と比べたとき、話せるときに会話することはコミュニケーションにかける時間を大幅に削減できます。そして肉声による会話は、相手に「自分が話している相手は人間なのだ」という、当たり前ながらも信頼感を得るのに最も重要な印象を与えられます。

まとめ:「対話」を実践へ

インタラクションデザインの本質は、ユーザーの利便性とビジネス目標という、ともすれば相反する二つの目的を、インターフェースという接点を通じて調和させる「対話の設計」です。その実践においては、デザイナーが単なる制作に留まらず、クライアントとの間に強固な信頼関係を築き、双方が共通の目的のために協働できる環境を構築することが重要です。これは目の前のクライアントと心を通わせる、あなたの誠実な対話から始まります。

人と人、そして人とプロダクトの間を補完する「対話の設計力」こそがデザイナーの真価となります。クライアントのビジネス成果に真摯に向き合い、ユーザーの体験価値へと昇華させる姿勢。それこそが、これからの時代に求められるインタラクションデザイナーの本来の姿なのです。

玉川 百代
フェンリル株式会社 デザイン部 ディレクター
Webコンサルタントとしてキャリアをスタート。3年間にわたり、ホームページ制作を通じたウェブコンサルティング業務に従事。2021年、フェンリルに参画。現在はディレクターとして、業務アプリからコンシューマー向けアプリまで、多岐にわたるプロダクトのインタラクションデザインおよびディレクション業務を担当。人間中心設計スペシャリスト。

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