クリエイターはどうすればいいのか
最後に生成AIを巡る問題に対して、今後クリエイターは、どのようなスタンスを取れば良いのかといったヒントについてもお伝えいたします。
▶デザイナーと協業者のクリエイターを分断させない配慮
画像生成AIに対し、イラストレーター、漫画家、写真家などが拒否感を示す一方、デザイナーはAdobe Fireflyなどの活用を推進する傾向にあります。SNSのエコーチェンバー現象に加え、Adobeのステークホルダー(利害関係者)であるエバンジェリストをはじめとしたトップデザイナーの存在が、協業者であるクリエイターの悲痛な声を届きにくくしているのかもしれません。 そのため、Adobe Fireflyの「クリーンな生成AI神話」を鵜呑みにするのは大きなリスクを伴います。
デザイナーが生成AI推進派と見なされれば、作家性の強いクリエイターからの協業拒否される可能性もあります。また、Firefly活用制作物のSNS炎上リスクも生じます。Photoshopの生成AI塗りつぶし機能や先日アップデートされた生成アップスケール機能など創作支援ツールの活用は否定されるものではないと思いますが、イラスト・動画などのコンテンツ自体を生成する際には、より慎重な姿勢が必要です。加えて、今後、デザイナーと協業クリエイターの分断を防ぐためにも、各種関連団体が共同で倫理ガイドラインを作成するといった対応も必要かもしれません。
参照記事:アドビ、PhotoshopなどのAI強化 保存高速化や「調和」(Impress Watch)
▶生成AIの問題を二項対立で考えない重要性
生成AIの問題は、現実的にはライトサイドとダークサイドに分けられるほど単純ではありません。SNSでは「生成AI推進派」と「反対派」に二分されがちですが、実際には推進でも反対でもない人が大半です。業務でAIを利用する企業や個人の多くは、必要に迫られて使っているのであって、クリエイターの権利を搾取したりしようとしているわけではありません。批判の対象は、不正学習を行う開発企業やエンジニアであって、ユーザーではないのです。この点を見誤ると、著作権問題におけるクリエイターの主張は社会の支持を失うでしょう。二項対立的な思考に陥り、AIユーザー全体を「敵」と見なすことは、推進と反対の間にいる中間層の理解者まで遠ざけてしまいます。
また、不買運動といったキャンセルカルチャーは、必ずしも万能ではありません。売上や社会的評価を下げる効果は一部あるものの、その影響を受けにくい市場も存在します。例えば、積極的な生成AI利用を掲げるゲーム会社「レベルファイブ」には批判が寄せられる一方、『ファンタジーライフi グルグルの竜と時をぬすむ少女』は累計120万本を超える大ヒットとなりました。これは、同作品がゲームライトユーザーである女性に人気の高い作品であり、生成AIの著作権問題への関心が低い層に広く支持された結果と考えるのが妥当でしょう。
※参考資料:AI時代の知的財産権検討会で提出されたレベルファイブの資料
▶同じ問題意識を持つ人たちと協力関係を築く重要性
生成AIの問題解決には、クリエイターだけの声では限界があります。そこで最適な協力者は、女性や子どもの人権を守る活動家や人権派の法曹家になるでしょう。一部クリエイターには抵抗があるかもしれませんが、「不当に傷つけられたくない」という思いは、まさに人権保護の領域と重なります。
ある論点で意見が合わないとしても、共通の目標があれば協力関係は築けます。意見が合わない部分は、また別問題として争えば良いのです。例えば、映画『ミルク』では、性的マイノリティの権利拡大を目指す運動家ハーベイ・ミルクが、一見保守的なトラック運転手組合とタッグを組み、共通の目標を見出し、互いに支持し合うことで、双方にとって大きな政治的成功を収めたシーンが描かれています。この立場は違えど、具体的な利害と目標に基づいて行動する協力戦略は、生成AIを巡る問題においても大きなヒントになるはずです。
特に日本は、少子高齢化による労働者不足をAIで解消したいという政財界の意見が強く反映されがちです。そのため、生成AI規制は、政治家や子育て世代、女性も関心の高いディープフェイクの問題から攻めるのが、広範な社会的支持を得る上で戦略的に有効でしょう。ロビー活動も、特定の政党・政治家に依存せず、超党派で訴えかけることが重要です。
▶生成AIをクリエイティブ活動に導入する意義とは
生成AIには、視覚や聴覚を司る「知覚のAI」(画像・動画・音声生成など)と、人間の思考を司る「思考のAI」(大規模言語モデル、LLM)があります。不正なデータセットの問題は両者に共通するため、「画像生成AIは否定するがLLMは活用する」といった線引きをするクリエイターに対し、批判的な見解を示す声も少なくありません。
それでも思考のAIであるLLMを活用する意義はあります。一つは、LLMは出力段階でのファインチューニングにより、画像生成AIより著作権侵害リスクが低いこと、もう一つは最終成果物を作るだけでなく、自身のアイデアを増幅し、可能性を広げるツールとしても有用な側面を持つことがその理由です。さらに、知覚AIの利用は避けられても、思考のAIであるLLMは今後、デジタル端末や家電に標準搭載される可能性が高く、その利用を避けるのが極めて困難になる現実にも向き合う必要があるでしょう。
まとめ
生成AIは、まさに諸刃の剣のような技術で、非常に便利である一方で、利用する側にも予期せぬダメージを与える可能性があります。これは、ファンタジー作品における「魔力」のように、その強大な力ゆえに魅了され「世界征服」を目指すようなダークサイドに陥る存在を生み出すリスクもはらんでいます。もし、この魔力に取り憑かれたラスボスの「敵」を倒さなければいけないのであれば、主人公が装備すべきは「聖なる魔法の力を備えた武器や防具」でしょう。
現実世界で生成AIを悪用する者やテクノ・リバタリアニズム的な思想を持つIT企業を対抗するには、倫理と安全性を最優先した「聖なる力」を持つクリーンな生成AIが必要です。これを最も高い可能性で実現できるのは、長い間クリエイターとの信頼関係を構築してきたAdobeではないでしょうか。様々な困難があることは承知していますが、当初掲げた崇高な理念を実現するために、Adobe Fireflyがよりライトサイドへ近づく軌道修正をし、その道を邁進してくれることを強く期待したいと思います。本記事が、その現状を伝え、問題意識共有のきっかけとなれば幸いです。
2025.08.08 Fri