家族と食卓を囲むとき、仲間とホームパーティーを楽しむとき、カトラリーが決まると上級者って感じがしませんか? なにより、食卓がグッと華やかに引き立ちます。今回のモノづくり探訪記は、日本人に合った金属洋食器を製造する「燕振興工業」を取材。モノづくりの街・新潟県燕市より、デザイナーズカトラリーの魅力をお届けします。
食卓に華を添えるデザイナーズカトラリー
金属洋食器の街、新潟県燕市には数多くのカトラリーメーカーが存在する。なかでも燕振興工業は、デザイナーズカトラリーを数多く展開する企業だ。ゆったりと寛ぎたいとき、楽しく食事をしたいとき、食卓をオシャレに演出したいとき、その時々の気分に合わせたお洒落なスプーンやフォークをたくさんのラインナップから選ぶことができる。
まずは数あるデザイナーズカトラリーの中から、毎日の食事にちょっとした「気持ち」をプラスするカトラリーシリーズを、デザインや加工のポイント共に紹介していこう。
[001]S字曲線が美しいスプーン&フォーク『Venus Line(ヴィーナスライン)』
食の道具にはもっと「情緒」があるべきだ。そんな思いから誕生したカトラリーがこちらの「Venus Line」。女性の美しさを表現したこのシリーズは、正面はもちろん横からみても美しい曲線が楽しめる。ボリューム感のある立体的な形状だが、ハンドルの裏側に窪みを設けることで軽量化しており、見た目ほどの重さは感じない。持ち手のS字ラインは左右非対称になっているが、左手でも右手でも使い易い。握りやすさも計算して作られているのだろう。
このシリーズにはマドラーもラインナップされている。マドラーは丸棒から作られることも多いが、「Venus Line」のマドラーは一枚のステンレス板から何度も型抜き・型押しを繰り返すことで完成する。その方が形や厚みの変化がつけやすく、表情豊かなマドラーに仕上がるからだ。今回は、デザイナーがイメージするヴィーナスラインを忠実に表現するため、金型を小分けにし、最終的には職人の手で研磨することで理想の形状と品質を実現した。
[002]自然と笑みがこぼれる親しみあるデザイン『equbo.(エクボ)』
こちらは、口に入れる部分に小さな窪み“えくぼ”を配した遊び心のあるカトラリー。フォルムはシンプルで現代的。表面はつやを消した「マット仕上げ」で落ち着いた印象にまとめられている。
全体的にフラットで先端部分も丸く作られており、家族の明るい団らんをそっと見守ってくれるような、親しみのわくデザインだ。近年話題のデザインオフィス「nendo」がデザインを手掛けている点にも注目したい。
[003]流れるようなフォルムとフィット感の『SIRIUS(シリウス)』
星座の名を冠した「SIRIUS」は、流れるように美しく、柔らかなフォルムが特徴。三角形の持ち手からダイナミックにフォルムを絞り、個性的なヘッド部分へとつながる様子はまるでオブジェのようだ。
手に持った感じは、しっくりと手になじむフィット感が印象的。高級感もあり、とっておきの場に使いたい燕振興工業のロングセラー商品である。
[004]小粋な表情で日常を彩る『ESPRIT MODERNE(エスプリモダン)』
こちらも30年以上の人気を誇るロングセラー商品。デザインはなんと燕振興工業の代表者が自ら手がけている。シンプルでリーズナブルな価格と高品質を両立したシリーズで、発売当時はデパートなどで大ヒット! のちに通商産業大臣賞も受賞した。
びわの葉のような楕円形の持ち手から、細く繊細な首、素朴な形状のヘッド部という緩急のある組み合わせだが、不思議なほど安心感がある。ノスタルジーを感じる古き良きデザインをベースにシンプルかつスマートにまとめたという印象だ。主張しすぎることがないので、どんな食事にも溶け込み、永く愛用できるカトラリーになるだろう。
[005]忙しい毎日に安らぎをプラスする『nagomi(ナゴミ)』
「忙しい現代社会に生きる私たちをニュートラルに戻す」をコンセプトにした女性向けのカトラリー。全体的に丸みを帯びた柔らかい形状が特徴で、仕上げは清潔感のあるミラー仕上げ。専用の金型でプレスすることで厚みに変化を持たせており、手にしたときの安定感もよい。
忙しい人に、豊かな暮らしと、ゆったりとした食卓を届けたい。そんな思いに満ちたカトラリーである。
燕振興工業は、代表者自身がカトラリーのデザインを手掛けるほどのデザイン好き。今でも日々デザイナーとの打ち合わせを重ねながら、年間1シリーズを目安に新商品を世に送り出している。その中でも厳選したデザイナーズカトラリー5点。この中にみなさまのお気に入りは見つかっただろうか。このほかにも魅力的な商品が揃っているので、気になる人は燕振興工業のWebサイトをのぞいてみて欲しい。
日本の暮らしに寄り添う自然なデザイン
燕振興工業のラインナップは、そのほとんどが日本人デザイナーによる日本人にあった洋食器。使ったときの心地よさも魅力の一つだ。今度は、毎日の暮らしに寄り添う技ありカトラリーをピックアップしてみたい。
[006]調理師を含む6人のデザイナー集団が作り上げた『SUNAO(スナオ)』
建築・ プロダクトデザイナー・大工・家具職人・アーティスト・調理師の6人からなるデザイナー集団「grafデコラティブモードナンバースリー」が手がけた作品。“日本の食卓に合うカトラリー”として開発されており、用途にあわせた豊富なラインナップ、そして各アイテムそれぞれの機能が十分に発揮できる緻密な設計が特徴だ。
ハンドル部分はかまぼこ型(半楕円型)で、手に持った時フィットし易いように。重量感や力の入れやすさ、ヘッドの深さなどにも細かい計算が盛り込まれている。全体的に少し小ぶりに作られているのは、日本人の手に合うサイズというのもあるが、日本の食生活の中で箸と並んだ時のバランスを考えた結果だ。
カトラリー単体の美しさだけでなく、使い勝手や食卓との調和がここまで考え抜かれているのは、さまざまな職種のプロフェッショナルが、それぞれの視点で知恵を出し合った結果といってよいだろう。
[007]実直なデザインで食の大切さを伝える『mA(エムエー)』
カタチに特徴がないという事は、毎日使っていても「飽きる事がない」ということ。常に主人公は自分自身。「mA」は、使う人が素敵に見えるようにと考えてデザインされたカトラリーだ。ハンドル部分を厚く重くし、口に入れる部分を薄く軽くすることで食べ物を捉えたときに丁度いいバランスになるように。ずっしりとした使用感は「食べる事の大切さ」を自然と伝えてくれる。
とてもシンプルで実直なデザインだが、数多くのプロダクトデザインを手掛けてきたデザイナーの秋田氏が、最も苦労した作品の一つなのだという。食事の大切さ、そして使用者自身も含めたデザインというのは奥が深い。一度手に取ったら、手放せなくなりそうである。
[008]レトロなのにどこか新鮮。デコラティブなディティールが素敵な『Hana(ハナ)』
この「Hana」は70年代にヒットした商品を復刻&リニューアルしたもの。昭和の時代には、凝った装飾のあるカトラリーが多く売られていたが、技術者の高齢化もあり、いまこのデザインを再現するのはとても難しい。
そんな中、大切に守ってきた金型と現代の設計・製造技術を組み合わせ、2015年に誕生したのがこの「Hana」シリーズ。シンプルな輪郭とデコラティブな模様の組み合わせは、普段使いでもおもてなしの席でも抜群に映える。
[009]機能もデザインも! スタッキングできる『Edin Burgh(エジンバラ)』
のびのびとした美しいフォルムだけでも欲しくなってしまう「Edin Burgh」だが、この商品の一番の特長はスタッキングできるということ。乱雑になりがちなスプーンやフォークも、このタイプなら綺麗にしまっておけるので嬉しい。木目のスタッキングセット(ミラー仕上げ)も販売されており、こちらはグッドデザイン賞を受賞している。
カトラリー本体は、細長いヘッド部分をもつ未来型フォルム。軽快で遊び心のあるデザインは、これから新生活をはじめる人にピッタリだ。友人同士で集まったときも、このカトラリーセットが出てこれば、きっと人気者になるだろう。
スイーツのお供に。ピックフォークとティースプーン
スイーツを食べたり、みんなで料理をしたりするときには見た目の楽しさも重要だ。最後に、気分が上がるユニークな2品を紹介して締めとしたい。食事のときだけでなく、パーティーをしたり、映える写真をSNSにアップしたり…、そんなときにもデザイナーズカトラリーは大活躍してくれるのだ。
[010]スイーツはスタイリッシュに『MODERN WABI SABI(モダンワビサビ)』
洋食器でありながら、和菓子を連想させるこちらの作品は、陶芸家・にしだ ゆか氏のデザインによるもの。どっしりと構えるスクエア型の持ち手に、日本古来の美しい土壁のような装飾を施し、日本の「わび・さび」と「モダン」を同時に表現した。
刃から持ち手へと立ち上がる湾曲が特徴的で、その佇まいには、日本庭園の砂紋を目にしたときのような緊張感がある。ピックフォークの刃の長さは5cmと長めなので、細身でも使いやすい。
[011]和にも洋にも合わせやすい自然体の『URBAN(アーバン)』
和食器、洋食器、陶器にガラスに木製品、どんな素材にも自然体で寄り添う「URBAN」はティータイムの強い味方だ。流線形のシンプルな形状は、どんな食器やスイーツと合わせても調和を乱すことなく、お気に入りのティーセットを見事に引き立てる。
ラインナップは、ティースプーン、ピックフォーク、バターナイフ、シュガースプーンの4種。シュガースプーンはデザートスプーンとしても使えるなど使い勝手もよく、購入者の評判もよい。シルバー(ミラー仕上げ/マット仕上げ)のほか、華やかなピンクゴールドも販売されており、コーディネートを楽しむこともできる。
暮らしを楽しむ特別な道具たち
燕振興工業が目指すのは、使う人、デザインする人、作る人、販売する人、商品に関わるすべての人が満足できるモノづくり。どのデザインも、ただ流行を追うのではなく、使う人の暮らしに寄り添って長く愛用してもらえるようにと作られている。
新進気鋭のデザイナーと、熟練の職人が協力し合い、新しい商品を生み出していく姿も燕振興工業の幸せの一つ。50年経っても100年経っても愛されるカトラリーは、このどちらが欠けても実現しないからだ。高いデザイン性の裏には、創業100年を超える老舗メーカーの信念がある。
高価なカトラリーをたくさん揃える必要はない。ただ、あなたの暮らしに必要な分だけ、信頼できるデザイナーズカトラリーを取り入れてみてはどうだろうか。明日からの暮らしが少しだけハッピーになるはずだ。
「燕振興工業」
https://tsubame-shinko.co.jp/
大正8年にナイフ製造を始めて平成29年で100年。現在では「金属洋食器」「道路反射鏡」「道路標識」「グラフィックサイン」の4つの基幹事業を持つ多機能メーカーとして歩みを進めている。金属洋食器部では、数多くの日本人デザイナーと手を組み、機能性とデザインが調和したデザイナーズカトラリーを生み出し続けている。
2021.10.25 Mon