M1 MacBook Proからの買い替え検討レビュー
新14インチ MacBook Proの買い替えは待つべきか?M2 MacBook Proの実力とその魅力を徹底検証!
日本時間の2023年1月18日、M2 ProおよびM2 Maxを搭載した新MacBook Proがサプライズ発表されました。旧モデルからの変更点が少なく見える割に値上げ幅が大きく、買い替えを検討していたけれどためらっているという人も多いのではないでしょうか。今回、その14インチモデルを試すことができたので、実際に動画編集などのクリエイティブ作業に使ってみて買い替えの価値があるかどうかチェックしてみました。
M2世代になった「14インチ MacBook Pro」
2021年10月にM1 ProおよびM1 Maxを搭載した初代14インチMacBook Proが登場してから、およそ1年3カ月。これといった前触れもなく、M2世代のチップを搭載した新モデルが発表されました。
新しい14インチ MacBook Proは全部で3機種がラインアップされています。大きな違いは下表のようにチップの性能とメモリやストレージの容量で、デザインやディスプレイ、キーボード、タッチパッド、インタフェースなどはすべて共通です。本体カラーはシルバーとスペースグレイの2色が用意されています。
14インチ MacBook Proのスペック
チップ | M2 Pro | M2 Pro | M2 Max |
10コアCPU/16コアGPU | 12コアCPU/19コアGPU | 12コアCPU/30コアGPU | |
メモリ | 16GB | 16GB | 32GB |
ストレージ | 512GB | 1TB | 1TB |
価格(税込) | 288,800円 | 358,800円 | 448,800円 |
円安の影響があるとはいえ、旧モデル登場時と比べるとベースモデルで49,000円も価格がアップしています。前回筐体やディスプレイなどが刷新されたばかりだったので、今回はチップの変更程度の小規模なモデルチェンジにとどまるだろうことは予測できましたが、ここまで値上げされるとは……。チップが変わったこと以外は新旧であまり違いがないように見えるため、なかには旧モデルからの買い替えを見送ったという人や、型落ちになって値頃感が出た旧モデルを買おうと考えている人もいるかもしれません。筆者も当初はそう考えていました。
しかし、実際に動画編集などで使用してみると、旧モデルにはない魅力や、新モデルでしかできないことも見えてきました。
動画編集などのクリエイティブ作業に嬉しい性能アップ
14インチ MacBook Proは、HDRや高リフレッシュレートに対応した非常に優秀なディスプレイを搭載していますが、自宅やオフィスではより大きな画面の外部ディスプレイにつないでクラムシェルモードやマルチモニター環境で使いたいという人も多いと思います。
そのため、新旧ともに本体にはHDMIポートと3つのThunderbolt 4ポートが搭載されており、M1/M2 Pro搭載モデルの場合は最大2台、M1/M2 Max搭載モデルの場合は最大3台の外部ディスプレイに映像を出力できます。
Thunderbolt 4(USB-C)×2、
3.5mmヘッドフォンジャックを搭載している
Thunderbolt 4(USB-C)、
HDMI 2.1ポートを搭載している
新モデルでは、そのうちHDMIポートが旧モデルのバージョン2.0から2.1に変更されています。それによってHDMI経由で出力できる映像の最大解像度やリフレッシュレートが次の表のように大きくアップしました。
新旧モデルのHDMIポートの比較
モデル | 2023年モデル | 2021年モデル |
バージョン | HDMI 2.1 | HDMI 2.0 |
規格 | 最大8K/60Hz、最大4K/240Hz | 最大4K/60Hz |
アップルが公開している情報によればThunderbolt 4ポートの最大解像度とリフレッシュレートは6K/60Hzとなっています。現状、動画編集でそれ以上の環境を必要とすることはほとんどないと思うのでHDMI 2.1ならではの優位性は大きくないのですが、将来、より解像度の高い外部ディスプレイでより高解像度な素材を扱うことになった場合でも対応できるのは心強いメリットです。
またHDMI 2.1は4Kで最大240Hzの高リフレッシュレートに対応しているのも大きな魅力。最近では4K/120Hzを超える外部ディスプレイが比較的手頃に購入できるようになっていますが、その性能をフルに生かして作業することができます。実際に手持ちのゲーミングモニターにつないでみましたが、4K/120Hzで表示できただけでなくMacBook Proの内蔵ディスプレイと同様に47.95〜120Hzの可変リフレッシューレート表示も可能でした。また4K/120HzでHDR表示させることもできました(もちろん、高リフレッシュレートやHDRで表示するには外部ディスプレイやケーブル側も対応している必要があります)。
高リフレッシュレートだと、1秒間に画面が書き換えられる回数が増えるため、その分スクロールやマウスポインターの動きが滑らかになります。クリエイターにとっては、板タブなどのペンの追従性や見やすさが上がるのも大きなメリット。イラスト制作やフォトレタッチなどで板タブを使っている人には作業効率のアップや目の疲れの軽減などにもつながると思われます。
M2 Proの実力は? 実際に動画編集をしてみた
前述の通り、14インチ MacBook Proはチップの性能の違いなどで3機種ラインアップされています。今回はそのうち、ミドルモデルとなるM2 Pro(12コアCPU/19コアGPU)を搭載した機種を試すことができました。標準の構成だとメモリは16GB、ストレージは1TBですが、試用機はそれぞれ32GBと2TBにカスタマイズされていました。
実作業で試す前に定番のベンチマークテストを実行してみたところ、CINEBENCH R23のシングルコアが1613pts、マルチコアが14785pts、Geekbench 6のシングルコアが2625、マルチコアが14061という結果になりました。アップルはM1 Proに比べてM2 ProのCPUパフォーマンスが最大20%アップ、GPUは最大30%アップしたと謳っていますが、CPUについてはその言葉通りの結果と言えそうです。
続いてAdobe Premiere Proを使って動画編集を試してみましたが、その動作の軽さに驚きました。4K素材でもサクサク編集できます。エフェクトを適用してもレスポンスが迅速ですし、プレビュー表示もスムーズです。エンコードも非常に高速です。
たとえばフルHD/30fpsで長さが2分の動画素材をYouTube向けプリセット(フルHD、H.264)で書き出してみたところ、わずか16秒で完了してしまいました。また、4K/60fpsで5分10秒の動画素材を条件を変えながら書き出してみたところ、次の表のような結果になりました。
動画の書き出し時間
出力形式 | エンコード方法 | 書き出し時間 |
4K/60fps/h.265 | ハードウェアエンコード | 5分58秒57 |
4k/60fps/h.265 | ソフトウェアエンコード | 13分19秒74 |
フルHD/60fps/h.264 | ハードウェアエンコード | 2分8秒66 |
※4K/60fps、5分10秒のH.264動画素材をAdobe Premiere Pro(Ver.23)で書き出した速度を計測
ハードウェアエンコードの場合は、Windows PCであればモバイル向けのCore i7+GeForce RTX 3050を搭載したノートPCに近い書き出し速度です。あくまでPremiere Proでの場合でアプリによっても結果は変わってきますが、エントリークラスのディスクリートグラフィックスを搭載したPCと渡り合えるくらいのパフォーマンスはあると言えそうです。
ちなみに動画を書き出している際にびっくりしたのが、ファンの音の小ささ。アクティビティモニタでCPU使用率を確認してみたところ、ハードウェアエンコードのときは全部で12コアあるうち2〜3のコアが30〜40%ほど使用されていただけで、ほかはほとんど未使用に近い状態。ファンの音もまったく聞こえませんでした。ソフトウェアエンコードのときは8個の高性能コアがほぼ100%稼働しますが、それでもサーッというホワイトノイズのような音が控えめにする程度。発熱も少なく、M2 Proの電力効率の高さがうかがえる結果になりました。
一部のCPUコアのみ30〜40%ほどで
推移していた
8つの高性能コアはほぼ100%稼働しており、
4つの高効率コアも高い稼働率だった
実際、新モデルは旧モデルに比べてバッテリー駆動時間も改善しており、Apple TVアプリのムービー再生は最大17時間から18時間に、ワイヤレスインターネットは最大11時間から12時間に伸びています。使ってみた感じでも、テキスト編集を中心にときどき写真や動画の編集を行う程度であれば1日は十分持ちそうでした。
気になる部分や新規格への対応状況もチェック
MacBook Pro本体のディスプレイで動画編集をする際に少し気になったのが、画面上部にあるノッチの存在です。デフォルトのディスプレイ解像度だと、Premiere Proの場合はアプリケーションメニューのうち「表示」、「ウィンドウ」、「ヘルプ」がノッチの右側に表示され、慣れないと結構戸惑います。ディスプレイ解像度を「スペースを拡大(1800×1169)」にするとすべてのメニューがノッチの左側に収まりますが、文字が小さくなるのにメニューバーの天地の幅は変わらないので少し間延びした感じになります。
アプリケーションメニューが多くて表示しきれない場合は、メニューバーの右側に表示されるステータスメニューが自動的に隠れて場所を譲る仕組みになっています。それでもアプリケーションメニューが表示しきれない場合は、メニュー名が一部省略されます。Premiere Proであれば「グラフィックとタイトル」が「グラフィック...」のように表示されます。モデルチェンジに際して、できればノッチを狭くするか、可能ならなくしてほしかったというのが正直なところです。
もっとも、その分メニューバー以外のスペースを広々と使うことができます。アスペクト比が16:9の動画素材をプレビューする際も全体表示のままで見やすいため、いちいち拡大表示させなくてもディテールが確認でき、動画の編集作業自体はやりやすく感じました。
このほか特筆すべきポイントとしては、Wi-Fi 6EとBluetooth 5.3に対応したことが挙げられます。Wi-Fi 6Eは対応ルーターと組み合わせて使うことで従来にはない6GHz以上の帯域を使用できるため、電波干渉などが起きにくく高速で遅延が少ないという利点があります。最近の動画編集ソフトはPremiere Proの「Frame.io」のようにリモート向けコラボ機能を搭載したものがありますが、データのクラウド共有やチャットなどがより快適にできるようになりそうです。
Bluetooth 5.3は、すでにiPhone 14シリーズやAirPods Pro(第2世代)でも採用されています。現時点では旧モデルのBluetooth 5.0と大きな違いはありませんが、5.3になったことで将来的にファームウェアアップデートなどでより高音質で低遅延のLE Audioに対応できる下地ができたことになります。
将来性を考えれば納得できる価格
HDMI 2.1も、Wi-Fi 6EやBluetooth 5.3も、現時点で恩恵を受けるユーザーはそれほど多くないかもしれません。しかし、映像・オーディオ技術やワイヤレス技術の進化の速さを考えると、「まだ必要ない」と言えるほど過剰な装備というわけではありません。これらの規格に対応してパフォーマンスも大きくアップしている新MacBook Proは、クリエイターにとっては数年先の将来も使い続けられる“よい先行投資”と言えるのではないでしょうか。
もっとも個人的には、今回試したM2 Pro(12コアCPU/19コアGPU)搭載モデルはパワフルすぎて少々持て余し気味でした。筆者のように静止画メインでときどき軽い動画編集を行うくらいのユーザーには、ひとつ下のM2 Pro(10コアCPU/16コアGPU)搭載モデルでも十分すぎる印象です。
逆に4K以上の素材を扱うことが多く、HDRやハイフレームレート動画の編集もしたいユーザーはM2 Pro(12コアCPU/19コアGPU)やM2 Max(12コアCPU/30コアGPU)、あるいはApple Storeのカスタマイズで選べるM2 Max(12コアCPU/38コアGPU)を検討するとよいかもしれません。
いずれもAppleシリコンより前の製品からのアップグレードであれば、飛躍的な性能向上を体感できるはずです。現在M1 Pro/Max搭載MacBook Proを使っている人には、そこまで大きな性能向上を実感できないかもしれませんが、長くなったバッテリー駆動時間やHDMI 2.1などの最新規格対応に魅力を感じるならば買い替える“価値”は十分あると言えそうです。
2023.03.07 Tue