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隆起印刷が施された偕成社の絵本「てんじつきさわるえほん ぼうけんしよう!」に注目

2024.06.13 Thu

子ども向けの本を出版する株式会社偕成社から、2024年6月に「てんじつきさわるえほん ぼうけんしよう!」が刊行されました。スギヤマカナヨ氏による「ゆびあそび」の絵本で、点字や図・絵などの部分に隆起印刷が施されています。目で見るだけでなく、手で触ってもイラストを感じられるつくりになっているため、見える子も見えない子もいっしょに楽しめる絵本となっています。対象年齢は3歳からで、定価は3,080円(税込)です。

隆起印刷を用いた手で触って分かる絵柄

「てんじつきさわるえほん」は、偕成社が「見える子も見えない子も楽しめる」をコンセプトに刊行している書籍シリーズです。本文が点字になっていて、絵は隆起印刷で表現されています。

左上から刊行順に「これ、なあに?」(バージニア・A・イエンセン、ドーカス・W・ハラー 作/菊島伊久栄 訳)、「ちびまるのぼうけん」(フィリップ・ヌート 作/山内清子 訳)、「てんじつきさわるえほん ノンタンじどうしゃぶっぶー」(キヨノサチコ 作・絵)、「てんじつきさわるえほん じゃあじゃあびりびり」(まついのりこ 作・絵)、「てんじつきさわるえほん 音にさわる」(広瀬浩二郎 作/日比野尚子 絵)、「てんじつきさわるえほん ぼうけんしよう!」(スギヤマカナヨ 作) ※「これなあに?」は点字なし

隆起印刷は、文字や模様を浮き出させる印刷手法の1つです。今回発売された「てんじつきさわるえほん ぼうけんしよう!」も、透明な樹脂を活用しながら、手で触ることでもイラストを感じられる本に仕上げられています。

そのような手や指で触って分かる図・絵は「触図」と呼ばれるそうです。反対に、視覚を使うものは「墨絵」と呼ばれます。今回の新刊の「触図」と「墨絵」を比べると、両者はまったく同じものではなくて、「触図」のほうは「触って分かりやすいように」デザインされています。

上が「墨絵」で、下が透明な樹脂で表現される「触図」のデザイン

本の朗読の音声もWebサイトで公開

「てんじつきさわるえほん ぼうけんしよう!」の具体的な内容は、「ユビッキー」のアドバイスを聞きながら「手を使った冒険」を楽しめるものです。コンセプトの通りに、見える子も見えない子も、そして見えにくい子も楽しむことができます。

裏面には、冒険を楽しむための「ぼうけんのてびき」が付いています。おまけとして「ユビッキーの紙人形」なども付いていて、軍手を使った「ユビッキー」の作り方も掲載されています。

「ユビッキーの紙人形」と「ゆうしゃのカード」。紙人形を輪ゴムで手に引っ掛けて遊ぶ

本のサイズは25(幅)×21(高さ)cmです。偕成社のWebサイトの書誌情報ページでは、音声データも公開されています。より幅広い読者に楽しんでもらえるように、著者による朗読の音声を収録したものです。惜しみのないこのサービスは、社会的にもとても意義深い試みであると感じました。

障害の有無に関わらず皆で楽しめる本

著者のスギヤマカナヨ氏は静岡県三島市生まれで、東京学芸大学初等科美術を卒業しました。また、The Art Students League of New Yorkでエッチングを学んでいます。1997年の「ペンギンの本」(講談社/著:カー・ウータン博士/絵:カナヨ スギヤマ)では講談社出版文化賞を受賞しました。

スギヤマカナヨ氏は、手で見る学習絵本雑誌「テルミ」の編集・制作にも2019年から携わっています。「テルミ」は、視覚障害のある子どもたちにも等しく読書の機会を体験し、本の面白さや読書の楽しさを味わってもらいたいという願いから1983年に誕生しました。

今回の「てんじつきさわるえほん ぼうけんしよう!」も、スギヤマカナヨ氏の「さまざまな理由で身体を思うように動かしたり、外で遊ぶことができない子どもたちにも、想像の世界では自由に走り回ったり、泳いだり、ジャンプしたりして楽しんでほしい」という想いが込められているようです。

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「ゆびあそび」の絵本である本作は、ザラザラ、ブツブツ、ツルツルといったさまざまな感触を楽しむことができ、目が見えない子はもちろん、見える子も一緒に遊べます。全ての人を取り残さずに尊重する「インクルーシブ」の理念がデザインの工夫や印刷の技術によって実現された「皆で楽しめる」作品です。

株式会社偕成社
価格:3,080円(税込)
URL:https://www.kaiseisha.co.jp/
2024/06/13

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