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読みやすい文字はどちらですか? 読み書き困難がある人にも読みやすい「じぶんフォント」の有効性を確認

2023.09.14 Thu

実施された調査画面のイメージ。左は「はっきりまるご」で右は明朝体

大日本印刷株式会社(DNP)と国立大学法人東京工業大学等が中心となって進めている「じぶんフォントプロジェクト」で、「じぶんフォント」の有効性が確認されたという調査結果の発表がありました。「じぶんフォント」は、発達性ディスレクシアを含む読み書きに困難がある人に読みやすいフォントとして開発されているものです。ここでは「じぶんフォント」の概要とその調査結果を紹介します。

多様な読み書き特性に配慮した「じぶんフォント」とは?

発達性ディスレクシアは、知的能力や教育環境に問題がないにも関わらず文字を読むことが困難な学習障害。「じぶんフォント」は、ディスクレシアの人たちの協力を得た研究をもとに開発されたフォントだ。大日本印刷株式会社(DNP)、東京工業大学、ファシリティジャポン株式会社、株式会社リアルタイプが、「個々人にとって読みやすい書体がそれぞれ存在する」という仮説にもとづいて、2022年にプロトタイプを開発している。

これまでに開発されたフォントは「どっしりまるご」「すっきりまるご」「はっきりまるご」の3種類。現在は一般に向けたフォントの提供・販売は行われていないが、今後さらなる研究や開発を重ね、誰でも利用できるようにプロジェクトを発展させていくことを目指している。

「じぶんフォント」として開発された3種類

「どっしりまるご」は、文字の上側の線が細くて下側の線が太くなっている設計。文字全体はやや平べったい形で、文字どうしの間隔は広めに確保されている。このフォントのデザインは、欧文ディスレクシアフォントの特徴に近い。

「すっきりまるご」は、3種類の中でも最も細い線を持つフォント。文字全体の形は正方形に近く、文字どうしの間隔はやや狭めに設計されている。

「はっきりまるご」は、3種類の中でも線が最も太い。文字全体の形はやや縦長で、文字どうしの間隔は「どっしりまるご」と「すっきりまるご」の中間くらいに調整されている。

「じぶんフォント」のWebサイトでは、これらの各フォントを紹介するページに「このフォントで表示」というボタンが設置されている。「どっしりまるご」の下部にあるボタンを押すとWebページが「どっしりまるご」で表示され、「すっきりまるご」の下部にあるボタンを押すと瞬時にフォントが「すっきりまるご」へと変化するといった仕様だ。

「どっしりまるご」で表示させた例
(じぶんフォント公式サイトより)
「すっきりまるご」で表示させた例
(じぶんフォント公式サイトより)

このボタンを押すと各フォントの違いが一目瞭然で、書体による見え方の違いに大きな差が生まれることを理解しやすい。

「じぶんフォント」に関する調査内容

今回、この「じぶんフォント」に関する興味深い調査結果が発表された。調査は「じぶんフォント」の公式サイトで無記名の方法で実施されたもの。内容は「フォントの主観的な読みやすさに関する一対比較」と「読み書き特性に関する質問表」がある。

「フォントの主観的な読みやすさに関する一対比較」では、7種類のフォントのうち2書体の比較を全ての組み合わせで実施し、主観的な読みやすさの順位を算出。7書体には「じぶんフォント」3種のほか、丸ゴシック体1種、明朝体1種、角ゴシック体2種が用いられた。

読みやすさの比較の調査に用いられた7種類のフォント

本調査は、2022年9月26日(月)〜11月18日(金)の期間に実施。有効回答数は5,180件(全回答数5,189件中)で、そのアンケートをもとにどのようなフォントがどのような人に読みやすいと選ばれたかが分析されている。

明らかになった「じぶんフォント」の有効性

この調査の結果では、まず「読み書きを苦手と感じ、かつ、文字が動いて見えるなどの視覚的な症状がある」というグループが、「読み書き困難がない」グループと比較すると、明朝体を読みやすいとは感じづらいことが示された。

明朝体は、筆で書いたような抑揚が残されていることが特徴。小説などで文章にリズムを生み出すためには有効な書体だが、そのような形よりも太さが一定のデザインのフォントのほうが、「読み書きが苦手」な人たちには読みやすい可能性がある。

上は丸みがあって抑揚が少ない丸ゴシック体。下は丸みがなくて抑揚が強めの明朝体

読みやすいフォントの上位に選ばれているのは、どちらのグループでも「丸ゴシック体」や「はっきりまるご」になっている。だが、「読み書き困難がない」グループと比べ、「読み書きが苦手」なグループでは、「じぶんフォント」の「どっしりまるご」や「すっきりまるご」を読みやすいと答えた人の割合が特に高い。

読み書き特性と読みやすいフォントの比率(括弧内は人数)

第1位の「丸ゴシック体」を7つのフォントの中で最も読みやすいと答えたのは、全体の約35%。第2位の「はっきりまるご」は、全体の約25%に最も読みやすいフォントとして選ばれている。3種類の「じぶんフォント」を合わせると、最も読みやすいと評価した人は全体の約40%。読み書き困難な人に絞ると約49%、読み書き困難がない人では約37%で、これらを踏まえて今回の調査分析では、「じぶんフォント」について一定の「有効性が確認」できたと結論付けられている。

回答者“全体”で読みやすいフォントの比率(括弧内は人数)

今後は、この調査結果がより実生活に近い環境でも確認できるか否か、実証実験が行われていく。DNPのWebサイトのほか、株式会社DNPビジネスパートナーズや株式会社NTTドコモのWebサイトに「じぶんフォント」が実装され、有効性の検証が進められる。

プロジェクトでは2030年に向けて「誰一人取り残さない」社会の実現を目指しており、研究・開発・バージョンアップはまだ途中過程だ。とはいえ、社会的にとても意義のある取り組みであり、フォントを扱う場面の多いデザイナーもぜひ注目しておきたいトピックと言えるだろう。

出典:じぶんフォント:読みやすいフォントを見つけるアンケートの結果
https://www.jibun-font.com/survey-report.html

じぶんフォントプロジェクト
URL:https://www.jibun-font.com/
2023/09/14

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