作業が捗る!クリエイティブワークが楽になる作業効率化「Tips」
値上げでユーザー離れ&Webデザイン領域から撤退の噂も...
Adobeの次なる戦略の考察とクリエイターの時代の変化に負けない作業環境の構築を考える
Figma買収が決裂後、AdobeはXDの開発を再開させるのではないかという予測もありましたが、「これ以上XDに投資する計画はない」とAdobe広報担当者が発表しています※。Figmaの競合ツールの開発が終了することが、ほぼ確実になったため、一部ではFigmaと競合するWebデザインツール開発から撤退するのではないかという噂も囁かれています。
また、2024年3月より、Adobe Creative Cloudの料金値上げが発表されたことにより、ライトユーザー層を中心にユーザー離れが起きる可能性もある状況です。クリエイティブツールの王者として長年君臨してきたAdobeにとって、重要な分岐点に差し掛かっているのは間違いなく、クリエイターにとっても大きな関心事になっていることでしょう。
そこで、今回はいつもと少し趣旨を変えてAdobeの次なる戦略を見極めるために、Adobeの事業を全体的に俯瞰し、買収による事業拡大の歴史などを振り返りながら、この一連を考察したいと思います。またさらに、クリエイターの作業環境構築で重要となるAdobeを今後どのように利用していくべきなのか、代替ツールの候補なども含めて検証していきます。
※参照記事:Adobe Gives Up on Web-Design Product to Rival Figma After Deal Collapse(Bloomberg)
Adobeという企業の全体像
Adobeの次なる戦略を予測するために、まずはAdobeの歴史と事業内容について再確認しておきます。
※時系列はWikipediaや過去のニュース記事などでたどれる日時を筆者が確認したもので、あくまでも目安の情報として提示しています。正確性を保証するものではないことを予めご了承ください。
▶Adobeのこれまでの歴史
Adobeはもともと、プリンターに描画を指示するためのプログラミング言語であるページ記述言語(PDL:Page Description Language)を開発・提供する企業として1982年に設立されました。ゼロックスの研究開発機関であるパロアルト研究所から独立したチャールズ・ゲシキ氏とジョン・ワーノック氏により創業されています。社名はワーノック氏の実家の裏を流れるAdobe Creekという小川にちなんで名付けられました。創業にあたりApple創業者のスティーブ・ジョブズ氏も出資しており、Appleとも関係の深い企業です。
Adobeは1987年にIllustratorを発売、1989年にはPhotoshopを発売します。雑誌『MdN』が創刊されたのも1989年12月で、MdNが「Macintosh designers Network」の略であることからも分かる通り、MacintoshでIllustratorやPhotoshopのようなコンピューターグラフィックスのツール用いたデザインのための総合情報誌として誕生したのです。こうした、コンピューターグラフィックスによるデザイン手法の登場は、当時のデザイン業界において現在多くのクリエイターが直面しているノーコードツールやAI機能の問題と同じくらいのインパクトを持った出来事でした。
IllustratorとPhotoshopの成功によりグラフィックツールで圧倒的なシェアを獲得したAdobeは、1990年代に入ってから競合する企業やソフトウェアを買収することによって事業を拡大していきます。以下は、Adobeが買収した主なデザイン関連の企業・ソフトウェアです。
Adobeが買収した主なデザイン関連の企業・ソフトウェア
買収先 | 買収年 | 主なソフト | 説明 |
---|---|---|---|
SuperMac | 1991 | RealTimeなど | ビデオ編集ソフトなど (後のQuickTimeやPremiereの開発に関連) |
Aldus | 1994 | PageMaker After Effects など | DTPソフト(開発中だったInDesignを含む) モーショングラフィックスソフトなど |
Frame Technology | 1995 | FrameMaker | DTPソフト |
GoLive Systems | 1999 | GoLive CyberStudio | Webオーサリングツール |
Macromedia | 1995 | FreeHand | ベクターグラフィックソフトを単体で買収 |
2005 | Flash Dreamweaver Fireworks Director など | アニメーションソフト Webオーサリングツール Webグラフィックソフト マルチメディアオーサリングツール などを企業ごと買収 | |
Pixmantec | 2006 | Lightroom | RAW現像ソフト |
MacroMates | 2008 | Muse | ノーコードWebデザインツール |
Omniture | 2014 | SiteCatalyst | Web 分析ソフト |
Day Software | 2015 | Day SoftwareWeb | Web コンテンツ管理ソフト |
TubeMogul | 2016 | TubeMogul | ビデオ広告 プラットフォーム |
Marketo | 2018 | Marketo | マーケティング オートメーション ソフト |
Magento | 2019 | Magento | Eコマース プラットフォーム |
Substance 3D | 2020 | Substance 3D | 3Dデザイン ソフト |
Workfront | 2021 | Workfront | ワークフロー管理ツール |
Frame.io | 2022 | Frame.io | ビデオレビューおよびコラボレーションプラットフォーム |
上記の表に挙げられた以外にも様々な企業・ソフトウェアがAdobeによって買収されています。そのほとんどが友好的買収であったと考えられますが、例外としてMacromediaの買収は、友好的買収を提案したものの拒否されたため最終的に敵対的買収に至ったケースです。
Adobeに買収されたツールは「十分に活用されないまま開発が終了してしまう」というイメージを持っている方も多いかもしれません。これは、Macromediaから買収された後に開発終了になったFlash、Fireworks、Directorといったソフトの印象による部分もあるのかもしれません。また、競合ツールを買収する過程で、その機能の一部を後継のソフトウェア開発やメインのソフトウェアの機能強化に活用していた部分もありますが、時代によって必要なツールが変化していく中でソフトウェアの名称自体が消失したツールも少なくありません。そのため、ベテランのクリエイターにはAdobeによる買収を歓迎しない一部のユーザーも存在します。Figmaの買収の際も、Adobeによる買収に不安視するクリエイターもいました。しかし、実際にはソフト開発の終了は時代の変化による要因も大きく、かなり早い段階で買収されたAfter Effectsなど現在も重要なソフトとしてラインナップされているツールも多いです。
▶クリエイティブツール以外のAdobeの事業
Adobeのメイン事業は、クリエイティブツールの開発・提供ですが、それ以外の事業も展開しています。事業の全体像を把握することで、Adobeという企業の強みや課題も見えてくると思いますので、それぞれを簡単に確認してみましょう。
1.マーケティング領域
Adobeは、顧客データの分析やキャンペーンのオーケストレーションなどに役立つ「Adobe Experience Cloud」、広告・SNS・Web サイトのキャンペーンを管理するのに役立つ「Adobe Marketing Cloud」、キャンペーンの効果を測定するのに役立つ「Adobe Analytics」などをはじめとしてマーケティング領域のツールも数多く提供しています。
2.文書管理領域
Adobeのクリエイティブツール以外の事業で最も広く利用されているのが「Adobe Acrobat Pro DC」でしょう。Adobeが開発したPDF(Portable Document Format)というファイル形式は、国際標準規格であり、OSや機器に依存することなく忠実に文書を表示できる技術です。その他にも、電子フォームの作成・管理などが可能な「Adobe Experience Manager Forms」、電子署名サービスの「Adobe Sign」、文書管理に必要なツールをまとめて提供する「Adobe Document Cloud」などを提供しています。
3.学習・コミュニケーション領域
Adobeは学習・コミュニケーション領域の事業も展開しており、eラーニングや学習コンテンツ作成ツールである「Adobe Captivate」や、Web会議・ライブ配信などのツールである「Adobe Connect」などを提供しています。
4.その他
この他にも、全てのAdobe製品とサービスにわたって活用される人工知能と機械学習のプラットフォームとして「Adobe Sensei」というソリューションを提供しています。
こうして事業の全体像を見ていくと、BtoCのサービスだけでなくBtoBのサービスも含めて、様々なビジネスソリューションツールを提供している企業であることが分かります。また、生え抜きの部門は出版や印刷に関連の深いツールや技術で、Webに関連のツールや技術の多くは買収されたものであるということも見えてきます。
2024.02.29 Thu