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コラム

2010.7.20 TUE

HyperCard HD登場か?ーiPad上でのオーサリング環境の可能性

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HyperCard HD登場か?ーiPad上でのオーサリング環境の可能性


2010年7月20日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)



iOSへのSiri技術の組み込みは秋か?

4月のこのコラム(「Siri+iPadで実現する!? ナレッジ・ナビゲーターの世界」)で、筆者は意味解析を含む音声認識エンジンの開発元で、iPhone用のコンシェルジェサービスアプリを販売している米Siri社を、「米Apple社か米Google社が買収することも十分考えられる」と書いた。

Siri
米Siri社のロゴ


そして、4月の末に米Apple社は実際にSiriを買収し、やはり同社がこの技術に注目していたことを証明する形となった。

そのあと、Wall Street Journal紙が主催する「D8 : All Things Digital」コンファレンスにおいて「この買収が(米Google社や米Yahoo!社の向こうを張った)検索エンジンビジネスへの参入を意味するのか?」と訊かれた米Apple社CEOのスティーブ・ジョブス氏は、「Siriは、検索エンジンの会社ではなく、人工知能技術の開発を手がけている」と答えている。

彼が、この種の質問に対して必ずしも真実を語らないことはよく知られているが、今回の受け答えは率直なものだと感じる。その理由は、Siriの技術の核心がまさにそこにあり、コンシェルジェサービスは単にその応用にすぎないからだ。質問者の同紙記者ウォルター・モスバーグ氏が本気で上記の質問をしたのだとしたら、彼は勉強不足あるいは分析不足と言わざるをえない。

と同時に、ここまではっきりとジョブズがSiriの技術について言及したことの裏側には、それを公表しても、たぶん業界内のだれも、Siriのレベルに追いつくことはできないと考えるジョブズの自信のほどがうかがえる。

おそらく米Apple社は、早ければ秋のiPad向けのiOS 4.xのリリース時に、Siriの技術をシステムに統合化してくるのではないか。そして、iPadの価格も多少下げるかもしれない。iOSのアップデートとさらに買いやすい価格設定がなされれば、実質的なライバル製品が存在しない今年の年末商戦は十分に乗り切れる。つまり、もとよりスクリーンサイズの小さなiPadの追加などは考えられないわけだが、カメラ搭載モデルへの以降も年内は行わず、早くても他社の新製品ラッシュが予想される来年の初頭までもち越されるような気がする。


米Apple社はiPad向けのオーサリング環境を否定していない

そして、秋の発表時には、もうひとつサプライズが用意されているのではないかと胸に期することがある。それは、かつて一世を風靡したカード型マルチメディアオーサリングツール、「HyperCard」のiPad版だ。

というのは、やはりD8の席上でモスバーグ氏が、iOSでサポートされないFlashの、開発環境としての側面に言及したときのジョブズの反応が気になったからだ。彼は唐突に「(今のFlashよりも、ジョン・スカリーCEO時代に開発されたApple純正オーサリングツールの)HyperCardのほうがポピュラーだった」と答えたのである。

HyperCard
HyperCard

モスバーグ氏から「さすがに、Flashほどではなかったはず……」と反論されても「当時は、そうだったんだ」と擁護するほどで、自分を米Apple社から追い出したスカリー時代の話を極力避けてきたジョブズ氏にしては、不可解な行動と言わざるを得ない。それどころか、スカリー氏肝いりの技術であったHyperCardをもち出して、米Apple社のDNAを語ること自体が、これまでのジョブズ氏ではあり得ないことなのだ。

大体、Flashの非サポート問題での質疑で、いきなりHyperCardの話をもち出して、こちらの方が数段上だったというくらいなら、iPad版のHyperCardを出せばよいではないか! そう、そこまで言うなら、iPad版のHyperCardを出せばよいのである。

モスバーグ氏が、肝心なときにそのことを追求しなかったのが残念だが、あとになって筆者は、ジョブズ氏の発言の真意をよく考えてみた。

だが、それを説明する前に、iPad上でのオーサリング&プログラミング環境の扱いをめぐる経緯の、簡単なおさらいをしておくほうがよいだろう。

DynaBook構想の生みの親であるアラン・ケイ氏は、初代iPhoneを見てジョブズに「スクリーンを5×8インチにすれば、世界を支配できる」と進言し、実際のiPadに触れたときには「UIが最高で、やばいくらいだ」と言った。

しかし、Smalltalkから派生した子どもでも使えるプログラミング言語であるScratchや、自ら開発した別の教育向けの言語であるeToysが走るかどうかがわかるまでは、最終的な評価は控えたいとも語った。

そして、実際に(一時はApp Storeからダウンロード可能だった)iPad用のScratchが米Apple社の判断で削除されると、「世界の子どもたちにとってよいものは、どこの(プラットフォームの)上でも稼働できる必要がある」と非難した。

削除の理由は、iPhoneデベロッパー向けの契約事項の第3.3.2項に新たに設けられた「アプリには、米Apple社のもの以外のコード・インタプリタを含めてはならない」という規約に違反するからである。

たとえば、JavaScriptに関しては「JavaScript Anyware」という名前のアプリを使ってのコーディングと、内蔵ブラウザ(米Apple社のコード・インタプリタを使用)上での実行が可能だ。

つまり米Apple社は、iPad上でのすべてのオーサリング&プログラミング環境を否定しているわけではない。(サードパーティにとっては気の毒だが)自社のコード・インタプリタに基づく環境であれば、実現可能ということなのである。


iPad用オーサリングツールの手本を示す?

たぶんジョブズ自身も、特に教育関係の分野では、今後、本格的なプログラミングまでできなくても、何らかのスクリプティングが可能なオーサリング環境を用意することは必要になると踏んでいるはずであり、Androidにもコーディングなしにアプリがつくれる「Google App Inventor」が公開されるなど、この方面の動きが慌ただしくなってきた(参考記事「グーグル、誰でもAndroidアプリを作れる「App Inventor」公開」)。

では、なぜもっと早くにそのような環境を用意してこなかったのか?

その質問から思い当たるのは、iOSのコピー&ペースト機能だ。初代iPhoneの時代までさかのぼって、ユーザーからはコピー&ペースト機能が必要と突き上げられながらも、米Apple社はかたくなとして聞き入れず、バージョン3.0になってようやく実現させた。それは技術的に難しかったからではなく、タッチスクリーンデバイスにふさわしく、作法としても美しいユーザーインターフェイスのあり方を模索していたためだった。

プレゼンテーションツールについても同様だ。iPadが出るまで、iPhoneからの映像出力は限定的なもので、標準的な写真のスライドやビデオ、そしてYouTubeアプリの映像再生くらいしか対応しておらず、サードパーティにはそのためのAPIは開放されていなかった。これは、間接的にプレゼンテーションツールの開発が禁じられていたのと同じことなのである。

しかし、iPadとともに純正プレゼンアプリのKeynoteがリリースされると同時に、iPad向けサードパーティ製アプリへのVGA出力機能の組み込みが解禁された。

上記の情報や出来事を結びつけて考えてみると、ひとつの仮説が浮かび上がる。それは、米Apple社はiPadにオーサリング&プログラミング環境が不要と思っているのではなく、タッチスクリーンにふさわしいインターフェイスをもったアプリを完成して、手本を示すことができるようになるまでは、許可したくないのではないか、ということだ(もちろん、許可するようになったとしてもインタプリタレベルだろうが……)。

米Apple社には、過去にも同様の事例があり、そもそも初代MacのときのMacPaintやMacWriteも、GUI時代のペイントソフトやワープロソフトのあり方を手本として示すために開発され、本体にバンドルされた経緯がある。

そして、従来のPC向けのインターフェイスをタッチスクリーン向けに拡張しただけのScratchアプリでは、同社やジョブズの考える理想との間にギャップがあったに違いない。もちろん、ほかのiOSアプリにもUI的に洗練されていないものは存在するが、ことオーサリング環境に関してそのことを米Apple社が看過できなかったのは、とりも直さず、この分野がiPadの将来計画において重要だと考えているからにほかならない。

そういう観点から大胆に予測すれば、米Apple社はiPad用の純正オーサリングを準備中であり、それはHyperCardの血統を継ぐ存在ではないだろうか? そして、その発表時期は、早ければ秋のiPad用iOS 4発表と重なるものと期待しているのである。


HyperCard3
HyperCard 3.0の技術プレビュー(リリースされなかった幻のバージョン)



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大谷和利氏近影

[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)。

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