第9回 半端な中小企業サイトの改善 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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サイトプロデュース


Webプロデューサーはつねに結果を意識しなくてはならない。企業のサイト構築に「つくりっぱなし」はなく、運営・管理・コストを意識した提案こそがユーザーとクライアントを満足させる結果を導く。


文=村田アツシ
文=村田アツシ
(株)セットアップにて、企業サイト構築及び、業務系システム構築においてコンサルティングを手がける
url. www.setitup.jp/




Clip No.9
半端な中小企業サイトの改善



中小企業のWebサイト事情

経営者がWebサイトを理解しない

総務庁「事業所・企業統計調査」によれば、中小企業数(会社数+個人事業者数)は、約432.6万社で、全企業数に占める割合は99.7%。中小企業の定義は業種により異なるが、従業員数300人以下で資本金3億円以下。小規模企業においては従業員数20人以下とされている。ほぼ、100%の企業が中小企業という現状だが、同じ数だけ企業サイトが存在するとは到底考えられない。

現に(株)日本レジストリサービス(JPRS)の2007年1月17日の発表では、「CO.JP」ドメイン名の累計登録数は約30万件で、その内訳は2006年12月時点で約8割が株式会社、2割が有限会社や合資会社だという(jprs.co.jp/press/070117.html)。ほかに協同組合や共済会など、任意の団体や組合を含めると国内の企業系サイトビジネスは確実に存在するのにもかかわらず、たったの30万件なのだ。

問題は、「なぜ、いまだにWebサイトや独自ドメインをもたない企業が存在するのか?」ということである。その答えは簡単で、インターネットははやっても「どういうメリットがあるのか?」を経営者が理解していないことにある。

Webサイトのメリットが理解されないワケ

経営者が自社サイト構築にあまり前向きにならない理由は、ビジネス的な効果が不明確なためだ。たとえば、農業や林業、水産業、特定メーカーの研究・請負などをおもな収益主体としている企業にとっては、公開できる情報が少ないために、積極的にWebサイトに情報を掲載するメリットを享受できない。また、中小企業では、世間のブームに乗って「“会社名”と“地図”があれば便利」とつくってはみたものの更新せず、というケースも多いようだ。もちろん、積極的にWebサイトを活用して成功している企業もあるが、全体としてはまだまだ少ないといえる。

そのほか、経営者はつねに数字を見ているため、費用対効果をつかみにくいものには前向きではない。実際、「インターネットを導入したら、社員がネットサーフィンやチャットをし出して生産性や規律が落ちるので、どうにか制御したい」「社員全員にメールアドレスを与えてよいのか?」「情報が流れてないか、社員全員のメールをすべて監視したい」というリクエストは多い。

制作側としては、こうした背景を理解する必要があり、まちがっても「Webサイトを公開すればメリットがある」という前提でのプロデュースは避けるべきだ。会社案内すらつくろうとしない企業にその論理は通用しないのである。


実録!中小企業のサイトリニューアル

依頼内容を理解し、評価されるものをつくる

実際に、ある企業のサイトリニューアルをサンプルに見ていきたい【1】。

【1】あるリニューアルサイトのサンプル
【1】あるリニューアルサイトのサンプル

Webサイトの位置づけとしては、取引先や子会社が海外にあるため、自社サイトを有効に活用して販路拡大を狙っている。直接収益に役立つとは思っていないため、投資額はミニマムにとらえている。

このような依頼内容は日常茶飯事だが、依頼を鵜呑みにせず、相手の考えを引き出す作業が必要になる。ただ、これら「直球の質問」に対してすぐに回答を得られるわけではない。担当部署や担当者が回答を出すまでには時間がかかるし、ましてや、原稿を用意してほしいとか企業イメージ(CIやCB)に対するリクエストを欲しいなどと言うと、一生回答が戻ってこないケースも多い。

プロデューサーは、まずリクエスト内容を把握し、組織を味方につけながら業務を進め、評価されるものをつくらなければならない。予算や時間はあるに越したことはないが、たとえそれらがなくても、頭を使って結果を出すのがプロデューサーの仕事なのだ。

「プロデュースツール」を使った進行を!

さて、依頼主である企業がサイトマップも、メニュー構成も具体的にイメージできない「生ぬるい」ケースは多い。その場合、最初からWebサイトをイメージできる形でデザイン作業を行うことをお勧めする。ただ、数千万円級の進め方と数十万円台の進め方は当然同じにはならないため、ゾーニングパターンやメニュー構成案、デザインサンプルを「プロデュースツール」としてあらかじめ用意しておくとよいだろう。

ネットビジネスが目的でない企業の場合、上場企業と非上場企業ではWebサイトで発信する情報は異なるし【2】、企業規模によってIT関連部署がある場合とない場合で運用を考慮する必要の有無がある。そういったことも考えながら、自分なりの企業サイトのメニュー構成と、デザインのテンプレートをつくっておく。企業ニーズをパターン化したうえで、サイトデザインをいくつか用意すれば、あとはエディトリアルの作業となる。低予算や短時間勝負でクリエイティブを要求されないケースにおいて、このような作業手法をとることで互いの工数と情報の行き違いを減らせる。

【2】上場企業と非上場企業のWebサイトでは、発信する情報に違いがあるという例
【2】上場企業と非上場企業のWebサイトでは、発信する情報に違いがあるという例


リニューアルの実行

今回のケースでは、「会社の告知情報の深度を高め、今の企業規模にステップアップさせる」という改善テーマをプロデュースサイドで設定。

クライアント側にWebのわかる担当者が不在なので、Webサイトの方向性と、構成内容などをプロデューサー主導で進めていく。

改善テーマ 会社の告知情報の深度を高め、今の企業規模にステップアップさせる【図】

【図】ご協力いただいた(株)カーウィージャパン(www.kawi-japan.co.jp/)は、世界中の独自生産ルートを使い、日本の小売業者に生活雑貨、ビューティー関連、インテリア、家具関連などの商品供給する企業。驚くような価格で、デザイン性、機能性の高い商品を調達
【図】ご協力いただいた(株)カーウィージャパン(www.kawi-japan.co.jp/)は、世界中の独自生産ルートを使い、日本の小売業者に生 活雑貨、ビューティー関連、インテリア、家具関連などの商品供給する企業。驚くような価格で、デザイン性、機能性の高い商品を調達

取引先に対してより明確な事業説明と企業の魅力を伝え、興味をもっていただく構成になっているか?

サイトのメニュー構成と、各メニュー内の構成テーマは明確か?
(メニューを増やすと、整理できていないと感じさせることになったり、更新性が損なわれる場合が多いため、やみくもにメニューを増やすことはお勧めしない。視覚的に認識できるメニューは最大7項目程度と、ユーザビリティの面でも常識となっている)

残念ながら、現在の企業概要と事業説明の2ページではこの企業に興味を起こさせるには内容が弱い。

そのため、メニューを再編。最新ニュース、企業情報、業務内容、KAWI SHOP(直営店誘導)、小売の皆様へ、社長メッセージ、問い合わせ、採用についてに変更。

この企業の場合は、多くの不特定多数のアクセスは不要なため、手の込んだSEO対策は行わない。


数字には表れない結果

今回のように、リニューアルなどで見た目や情報を整理していくことで果たして成果が得られるのか、という疑問が起こる。クライアントは、初めは満足していても、情報発信のためのニュースづくりや、商品紹介や組織体制の再編などをタイミングよく運用する工数が作業負荷として跳ね返ってくる。

「ページビューが増えると売り上げや取引先は増えるのか?」「デザインやナビゲーションは万人に受け入れられるのか?」「見た目がよくなって、企業にどのようなプロフィットを与えたか?」というと、残念ながらこの程度の見た目や使い勝手の改善では、原則的には何も変わらない。事業内容とより密接に関係しない限り、Webサイトだけの力でメリットを明確に出すことはできないのである。実は、これこそがプロデューサーの永遠の課題でもある。


本記事は『Web STRATEGY』2007年5-6 vol.9からの転載です
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