第38回 西条英樹(gift unfolding casually)
始めなければ何も始まらない
さまざまなジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回は「gift unfolding casually」の西条英樹さんを取材しました。雑誌『クォーテーション』のADをはじめ、さまざまな媒体を手がける現在までの足跡をたどり、デザインを志した「原点」を振り返っていただきましょう。
第4話 自分から動き出すこと
恵比寿のオフィスにて、西条英樹さん
──初めてグラフィックを始めて何年ですか?
西条●5年ぐらいですね。歳のわりにはキャリアが全然なくて。
──営業とかしました?
西条●去年、みんな同時に不況になったじゃないですか。で、会社的にも傾いたので、言い方悪いですが金になる仕事をとらないとダメだと思って動いたことはあります。
──いまレギュラー、何誌ぐらい抱えてます?
西条●そんなにないですよ。ファッション誌も一冊やるわけでなく、部分部分20ページとかやっているだけなので。季刊だった『MEN'S WWD』はまるまるやってましたが、いまは休刊になってしまったので……。
──蜂賀さんとの『クォーテーション』では、タイポグラフィーを結構作ってますよね。
西条●好きですから。特に蜂賀さんとの仕事はタイポグラフィーを武器にしているところがありますね。それ以外で武器になるものがないっていうのもあるのですが。そこで自分が面白いと思えるものが作れればと思って。蜂賀さんも同じことを二度繰り返すのは好きではないタイプなので、一回のアプローチであるフォントを作ったら、次はまったく同じものは使わない。自分も新しいフォントを作れば試したいと思うし、それが印刷されて流通するのはうれしいじゃないですか。作っている過程で、初めて自分がそのフォントを使うわけだし。
──その醍醐味が?
西条●ありますね。流し込んで、並べた瞬間に「オッ」とか「悪くない」と思って、自分を乗せていきたい。その新鮮さがあれば、自分も出来上がりが楽しみになるし。自分のモチベーションを上げるためっていうのが大きい。
──いまエディトリアルが中心ですか?
西条●ページ物のエディトリアルやカタログなど、『+81』の流れからファッションやデザイン系が多いですね。あまり広告や商業デザインに興味がないというか、最初からそういうところにいないから。VJの流れからこうなってしまっているので。
──VJの感覚とグラフィックの感覚って、いま思うと関連づけられるところありますか?
西条●建築とVJとエディトリアルはシークエンスなので、そこはいつも同じだなと思っています。流れで見せていく建築の導線とか、人の目線みたいなものの展開と俯瞰して見ている自分の、ふたつが必要だと思うんです。映像ならカット間のつなぎ、エディトリアルならば見開きの小さな積み重ねと引いた完成予想図を自分がどう見ていくか、それは似ているような気がします。一発、強いイメージを作るというよりは、流れで見せていくものだと。表紙はまた別ですが。
──いま事務所は?
西条●僕ともう一人のパートナーと会社を立ち上げて、以前は3〜4人、社員がいた時代もあったのですが、去年リストラしたんで……いまは二人だけで、あとフリーのアシスタントが出入りしています。
──今後、どんなことをやってみたいですか?
西条●立体感覚が強いわけではないのですが、パッケージをやってみたいなと思っています。化粧品とかのパッケージやボトルのデザインって、シンプルで文字が並んでいるようなものが多いと思うのですが……ボトルそのものをデザインするというよりも、化粧品まわりのデザインとかやってみたいですね。美容系の仕事はちょこちょこやっているのですが、企画の最初から立ち会う機会はないので、それはやってみたいなって思います。
──他には?
西条●あとは最近話題になっているiPad。映像の素養とグラフィックの素養を抱き合わせたものができるのではないか、と。それは本来、Webデザインの領域なのかもしれませんが、自分はWebができないし、あと正直、自分が思うようなエンジニアリング、オペレーティングする人に会わなかったので、できなかったんですね。でも、いわゆる電子書籍みたいなものは気になります。止まっているだけではなく、インタラクティブな要素が誌面の中に入ってくるようなものには可能性を感じたので。そこは自分でも得意分野ではないですが、もしそういう需要が今後増えていくのであれば、いろいろ試してみたいなと思っています。
──では、最後にアドバイスを。
西条●楽しんでやってほしいなっていうのが一番ですね。こうしろとかこうしたほうがいいとは僕の口から言えません。やっぱり僕は、人の出会いがたまたまラッキーだったんですよ。でも、美大を出た当初は自由に発想していたはずなのに、一回普通に就職したら現実とあまりに違って、自分で好きなことを考えるのを放棄しちゃっている人って少なくないと感じます。そうなってしまうのは、すごく悲しいことだなって。もともとデザインが持っている楽しさを忘れてしまうわけです。社会とどう結びつくだとか、コンセプトがどうとかも大事ですが、モノとして作るのが楽しいという感情、かっこいいというものを素直に持ち続けてほしい。そういう若い人が増えれば、業界自体も明るくなるだろうし、期待したいですね。
西条さんの仕事より
これまでの仕事で作成使用したタイポグラフィーの数々
今回で、西条英樹さんのインタビューは終了です。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
[プロフィール] さいじょう・ひでき●1973年大阪府生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部、京都芸術短期大学映像科卒業。雑誌『+81』を発行している「ディー・ディー・ウェーブ」に入社。その後フリーランスの映像デザイナーとして活動し、2005年、事務所「gift」を立ち上げる。http://www.gift-for.co.jp |